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はらぺこ魔王さまのお食事係!【完結】
第34章 【番外編:一】もげろと叫んで曲解される話
 アーベルは今、無性に貪りたかった。

 きっかけは言うまでもなく、幼なじみで上司でもあるルードヴィグとセラフィーナの蜜月中のご飯風景だった。

 アーベルも魔族だ。
 そんな光景を見せつけられて、仕事中にもかかわらず、理性的ではいられなかった。
 とはいえ、まだ、正気を保っていられるレベルではある。
 これが隣に好みの女性がいたのなら、迷わずその場で襲っているところであるのだが、近くにいたのは幸いなことに好みとは対極にいるアリシア。
 思わず、アーベルはアリシアの手首を捕まえてルードヴィグの部屋から辞していたが、しばらく歩いたところでグイッと引っ張られた。

「アーベルさま」
「なんだ」
「手首、痛いです」
「あ、あぁ」

 とっさに掴んでいたが、相手はお堅いと噂のアリシア。この高まりは一人で解消するしかないようだ。
 早いところ別れて、適当なところで落ち着くまで──と思ってアリシアを見ると、赤い顔をしていて、思わずドキリとした。

「二人を見て、高ぶったか?」

 自分のことは棚に上げて、思わずそんな言葉をアリシアにぶつけていた。

「違います。歩くのが早すぎて……!」

 アリシアは強引にアーベルの手を外し、手首の様子を見ていた。

「赤くなっている」
「誰のせいで!」

 ムッとした表情を向けられて、アーベルはしかし、高ぶりがさらに増したように感じた。
 周りを見回すと、このあたりは客室のようだった。
 現在、城にはセラフィーナの従者がいるくらいで、他には客はいなかったはずだ。
 赤くなっている手首をわざと持つと、アーベルはアリシアを部屋に引き込んだ。

「アーベルさま!」
「煩い」

 部屋の扉を素早く閉め、鍵を掛けるとアリシアの唇を奪った。

「っ!」

 唇を重ねると、アーベルの中に即座にアリシアの魔力が流れ込んできた。
 それは、今まで感じたことがないほど、甘美なもので……。
 アーベルは止まらなくなった。

 自分が他の魔族より理性が緩く、誰でもよくて手当たり次第に貪ってきた自覚はある。
 だが、アリシアとはそれなりの昔からの付き合いはあったが、対象外だった。
 だからこそ、ルードヴィグはセラフィーナの後見人としてアリシアを選んだのだろうが……。

「アーベルさま!」
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