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はらぺこ魔王さまのお食事係!【完結】
第48章 十*良い知らせと悪い知らせ
 * * * * *

 人間であればきっと、息が切れるほど、血を吐きそうなくらい必死に走ったとなるのだろうが、ヴィクトルは魔族だった。
 移動魔法を使えばあっという間にたどり着く。

 ヴィクトルが向かった先は、アルベルティーナのところだった。
 ヴィクトルの記憶にあるアルベルティーナの部屋に一気に跳ぶ。

 しかし。
 そこはがらんとした、なにもない部屋になっていた。

「な? どういうことだ?」

 あの五日間の間、ヴィクトルはアルベルティーナと色んな話をした。
 といっても、アルベルティーナが一方的に話し、ヴィクトルは聞いているだけだった。とはいえ、ヴィクトルはたまにアルベルティーナの話にツッコミを入れたし、話の腰は折るし、話題はあちこちに飛ぶしと忙しかった。
 そのとき、この部屋はケヴィンがアルベルティーナのために用意した部屋だと言っていた。
 子どもが産まれて、大きくなったら、この部屋の隣に子ども部屋を作るとも言っていた。
 それなのになぜ、アルベルティーナはここにいない?
 久しぶりの移動魔法だから、着地点を間違った?
 いや、それはない。
 この地味な茶色の壁紙は間違いなくアルベルティーナの部屋のものだ。
 とそこで、ヴィクトルは疑問に思った。
 王宮内の他の部屋の壁紙は白っぽいのに、なぜ、この部屋の壁紙だけこんな暗くて地味な色なのだろうか、と。

 ヴィクトルはしばらく考えたが、答えは出なかった。
 それにいつまでもここにいては、アルベルティーナに会えない。
 ヴィクトルは扉を開けて廊下に出て、アルベルティーナを探すことにした。

 廊下に出た。
 まではよかった。
 ヴィクトルの格好は今、大変汚かった。見た目も不潔で、髪の毛とヒゲは伸び放題だったし、何日も湯浴みをせず着替えもしてないのでかなり臭う。
 だけどそんなこと、ヴィクトルは構わなかった。
 とにかく、アルベルティーナに会わなければという一心だった。

 ──一心だった。
 そう、それだけだった。
 そして、それゆえに、ヴィクトルは捕まり、牢屋に入れられた。
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