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籠の中の天使
第10章 快楽と戸惑い
たかが携帯なのに…。
追い詰められた気分になる。
慌てて電源を切って鞄の中に携帯を入れる。
翌日、南斗が病室に来ると
「携帯の電源、切ったのか?」
と聞いて来る。
「峯岸君とか上地さんの着信が凄くて…。」
「夏休みの宿題くらい出来るか、夕べ連絡したのに…。」
「携帯…、どうしよう…。」
泣きそうになる私の頭を南斗が撫でる。
「携帯は噛み付いたりしないぞ。」
「そんなのわかってるもん…。」
「なら、落ち着いたら返事してやれ。」
そう言った南斗の手が私の顔に触れて来る。
「風呂、入ったのか?」
少し寂しそうな声…。
「髪、洗っただけだよ。」
「昨日はすげー咲都子の匂いがしてたのに…。」
「それって臭いって意味!?」
「ちげーよ。咲都子の匂い、好きだって言ったろ。」
掠めるように南斗の唇が私の頬に触れて南斗が私を抱き締める。
いつだって、そうだ。
南斗に抱っこされるのが当たり前で、南斗の温もりの中で私は眠って来た。
「南斗…、私も南斗が好き…。」
南斗にしがみつく。
「うんうん…、咲都子はいい子にして早く退院しろよ。」
私の精一杯の告白も、南斗からすれば子供扱いで流される。
これはこれで辛いな…。
南斗が帰る時間は泣きたい気分になる。
「明日も来るから…。」
南斗の約束…。
わかってる。
南斗は毎日やって来る。
夏休みなのに学校に行き、仕事を済ませれば真っ直ぐに私のところに来てくれる。
1日に2回は北斗さんが診察に来る。
「お腹…、空いた。」
それは久しぶりに言えた言葉だった。
私の言葉に北斗さんが嬉しそうな顔をする。