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籠の中の天使
第10章 快楽と戸惑い



「今日まではお粥、明日からを普通食にして、体調が良ければ風呂の許可も出る。後は熱を出したり吐き気が無ければ帰れるよ。」

「帰れるの?」

「早く南斗のところに帰りたいんだろ?」


北斗さんの言葉にちょっと照れ臭くなる。


「俺も毎日、緋彩が待つ家に早く帰りたいとばかり考える。だから咲都子ちゃんが帰りたい気持ちはよくわかるよ。」


北斗さんは夜の0時にならなければ家に帰れない。

だから持田病院の夜勤は持田先生と北斗さんが交代でやってる。

あの街に住む男が路地をウロウロとすれば、妓楼に来たお客さんとの区別がつかず紛らわしくなるだけだと、うちのお父さんもお店が閉まる0時までは絶対に帰って来ない。

あの街の男は自分の家に帰る事すら難しい。

南斗と私に距離があるのと同じように北斗さんと緋彩さんにも『あの街だから…。』というおかしな距離がある事を知る。

今の私は私の努力次第で南斗のところに帰れる。

南斗のところに帰る為なら、いくらでも頑張れる気がする。

入院して6日目に退院が決まった。

夏休みはもう1週間も終わってる。


「少しは宿題をやったのか?」


私を迎えに来た南斗が聞いて来る。


「全部、終わっちゃった。病院だとする事が無いもん。それに北斗さんの教え方が上手いし…。」

「兄貴は上手いよな。俺もよく教わった。」


たわいの無い会話でも南斗と2人になれた事を実感するから嬉しくてはしゃいじゃう。


「夕飯は南斗が作ってくれるの?」

「咲都子はサボる気か?」

「私は退院したばかりだよ?」

「リハビリだと思って、しっかりと労働しろ。」


南斗もはしゃいでる。

久しぶりの南斗の部屋で2人で戯れながらテレビを観たり、南斗が買ってくれたケーキを食べたりしながら過ごす。


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