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籠の中の天使
第17章 スタートライン
「生まれとか人種とか、どうでもいいって思って生きて来たの。あの国じゃ自分の才能だけが全てだからさ。」
千鶴さんの言葉とアメフトで結果を出そうとしていたノアの言葉が重なる。
「千鶴さんって…、凄いです。」
「でしょ?なのに、私の才能がボロボロになるまで貶してくれた日本人女が現れたのよ。」
「千鶴さんをですか?」
「それが沙来さんってわけ。こっちは日本語なんかわからないってのに、日本語でやたらと私の悪口を捲し立ててさ。」
「沙来さんが?」
「言っとくけど、私、ゲイじゃないのよ。家に帰れば、ちゃんと嫁と子供が居るパパだからね。」
千鶴さんのオネエ言葉は全て沙来さんのせいだと千鶴さんが頬を膨らませて抗議する。
アメリカで奇抜なスタイリストとして名前が売れ出した千鶴さんに来た仕事は沙来さんがコーデした下着姿のモデルさんのスタイリングだった。
「私のメイクはモデルを輝かせる事は出来ても、主役である下着を殺してると沙来さんから言われたわ。」
沙来さんの言葉にショックを受けた千鶴さんは沙来さんの言葉を必死に覚えて、沙来さんが望むスタイルを目指した。
「穂奈美もあの沙来さんに憧れてコーディネーターの道を進んだのよ。」
「市原さんがですか!?」
「それだけ沙来さんの影響力って強いのよ。咲都子だって将来は何になるにしても沙来さんの言葉を信じてれば、必ず報われる日が来るわよ。」
誇らしげに話す千鶴さんだけど、私はノアが居なければ沙来さんの存在すら知らなかった子だと思うから、再び俯いてしまう。
「ほら、また…。顔を上げなさい。髪染めは終わったから、今度はカットに入るわよ。」
何度俯いても千鶴さんは私に顔を上げろと言う。