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籠の中の天使
第17章 スタートライン
そこには私が知る、あの街の籠娘が居なかった。
鏡の中には顔を上げ笑みを浮かべる新しい私が居る。
「凄いっ!千鶴さん、素敵です。」
「当然よ。メイクに困った時は連絡して来なさい。」
千鶴さんが携帯の番号を書いた名刺をくれる。
「私…、携帯が…。」
持ってない。
家を飛び出した時に携帯も置いて来た。
「新しいの買えばいいじゃない。新しい咲都子になるなら古い携帯なんか邪魔になるだけよ。」
あっさりと過去を否定しろと言う千鶴さんの言葉が胸の中でチクリと痛みを起こす。
新しい私は南斗を捨てるしかない。
既に南斗に捨てられた存在のくせに、往生際の悪い私は千鶴さんに苦笑いだけを見せる。
「さて、新しく生まれ変わった咲都子を待ってる人が居る事を忘れないで…。」
千鶴さんが私の背中を叩いて特別室から追い立てる。
私を待ってる人…。
千鶴さんとのメイクやコーデの話に夢中だった私はノアの事をすっかり忘れていた。
生まれ変わった私を見てもらう。
少し緊張して喉が乾き出す。
「千鶴さぁん…。」
あれほど怖かった千鶴さんにしがみついて助けを乞う。
「自信を持ちなさいって言ったでしょ?今の咲都子は最高のコーディネーターとスタイリストが作り上げた最高傑作なのだから…。」
私を美術品のように言う千鶴さんが背筋を伸ばせと言わんばかりに背中にある肩甲骨の辺りをバンッと叩く。
息を大きく吸い、生まれ変わった私を見てもらう為にノアが待つ控え室の扉を開ける。
応接室になる控え室では、退屈そうなノアがソファーに深く腰を掛けて携帯を弄ってる姿が見える。
「お待たせ…。」
勇気を出してノアの前へと踏み出す。