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籠の中の天使
第19章 羽ばたく瞬間
それは恋人同士の甘い時間とは言えない。
傷を負うものが寄り添い、傷を癒す為に互いの傷を舐め合う様な穏やかな時間だと思う。
「今朝は落ち着いてるな。」
夕べ、あれほどまでに興奮していた私の変わり様を薄ら笑いを浮かべるノアが冷やかす。
「緊張は…してるよ。でもね…。」
「でも…。」
「穂奈美さんが与えてくれたチャンスだと思うと、少しだけワクワクとかしてるの。」
誰かに何かを頼まれる事自体が、あの街の籠娘だった私には生まれて初めての経験だから…。
いつも北斗さんや南斗の影に隠れて逃げるだけの自分だった。
甘やかされる事に慣れ切った私は一度だって誰かの為に生きようとはしなかった。
この世から自分を消す事ばかりを考えた。
そのせいで、大好きな南斗を苦しめ続けるしか出来なかった。
今の私は違う。
生まれ変わるチャンスがあるのだとノアから教わった。
出来るなら…。
ノアのように誰かの役に立ちたいと願う。
それでも…。
「それでも…、やっぱり…、怖い…。」
笑顔が引き攣り、手が震える。
「誰だって…、怖いさ…。」
何事にも動じないノアが私の身体を引き寄せて手を握る。
震える手の平に舌を這わせて舐め上げる。
「緊張を解くおまじない…。」
ニヤリと勝気にノアが笑う。
いつだって自信たっぷりに笑うノアに釣られて笑っちゃう。
「そんな、おまじないは聞いた事がないよ。」
「そりゃ、そうだ。これは俺のオリジナル。」
「効き目が薄そう…。」
「でも、震えは止まった。」
ノアの言う通りだ。
不思議な事に手の震えが止まってる。
私の震えが止まったのを確認したノアが、ゆっくりとソファーから立ち上がり私に向かって手を差し出す。