この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
籠の中の天使
第19章 羽ばたく瞬間
翔んでる…。
風の無いスタジオで髪を大きく靡かせて自信に満ちた笑顔を振り撒くモデルさんの姿は、何処かで見た事がある大天使の肖像画を思い出させる。
これが…、穂奈美さん達の世界を創り上げる人の仕事…。
私以外のモデルさんは完璧な姿で完璧な仕事を織り成す。
神に選ばれた天使達…。
醜い籠娘が気軽に参加して良い場所では無いと悟るのに、時間の必要などない。
「咲都子…。」
スタジオの隅に居たノアが私の方へと向かって来る。
私の為に広げられた腕は、大きな翼に見える。
ノアも天使だ。
私とは違う。
私に向かって来るノアに逆らい、一歩一歩と後退る。
「咲都子っ!」
ノアが声を少しだけ荒げるのを合図にしてスタジオの出口に向かって走っていた。
「咲都子っ!」
千鶴さんの声もする。
それでも私の足は止まらない。
逃げる事しか知らない。
歪んだ世界の中を走り抜けてスタジオから逃げ出す。
「待てっ!」
強引に腕を掴まれる。
「嫌っ!離して…。」
全身に恐怖の感覚が蘇り、掴まれた手を振りほどこうと必死に踠いて足掻く。
「泣くなっ!」
頬にノアの手が当たり、無理矢理に私の顔を上げさせる。
私の目にはノアの紅い炎だけしか見えなくなる。
「嫌…。」
涙を流し、ノアから逃げる事だけを考えてしまう。
「泣くな…、泣けばメイクが崩れる。服も汚れる。お前はモデルなんだよ。例え失敗したとしても意地でも泣くな。」
「そんなの無理…だよ。」
「無理じゃないっ!」
「無理だよっ!だって私は天使じゃないっ!私は醜い籠娘だもの。あの人達のように翔べないものっ!」
私の支離滅裂な言葉を塞ぐノアの唇が唇に押し付けられる。