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籠の中の天使
第19章 羽ばたく瞬間
でも穂奈美さんは私に翼があると信じてくれた。
ノアも私を信じてくれている。
「咲都子っ!」
廊下の向こう側から千鶴さんが走って来るのが見える。
「ごめんなさい…。」
泣いた私は千鶴さんの仕事を台無しにしてる。
「いいから、スタジオに戻りなさい。メイクくらい、私が幾らでも直してあげるから…。」
千鶴さんが私の手首を握ってスタジオに戻る道を歩き出す。
千鶴さんの背中にも大きな翼が見える。
「千鶴さん…、私の背中にも翼はありますか?」
私のおかしな質問に千鶴さんが呆れた表情を見せる。
「翼?何よ、それ?」
「ノアには私の背中に翼が見えるらしいです。私はその翼で自由に翔べると言うの。」
「宗教的な話ね。レイヤってユダヤの子だものね。」
「私は翔べますか?」
「私には宗教ってよくわからないけど、自分を信じてる子は誰でも翔べるはずよ。自分に自信が無い人は何をやっても成功なんかするはずが無いもの。」
スタジオに戻り、千鶴さんが私の崩れたメイクを直しながら話をしてくれる。
「まあ、このスタジオの中じゃ、今は穂奈美が神なのよ。咲都子はその神に選ばれて来たのだから自信を持ちなさい。」
ノアと同じ事を言う千鶴さんが私の頭を両手で挟み、グイッと強引に上向きにする。
目の前の鏡には籠娘ではなく、間違いのない天使が居る。
「もう…、泣いて千鶴さんのお仕事の邪魔はしませんから…。」
嫌な事を何も感じなくなった心で笑える自分を千鶴さんに見せれば、千鶴さんが目を丸くして私を見る。
「ちゃんと素敵な笑顔が出来るじゃない。」
苦笑いをする千鶴さんに送り出されて、スタジオのスクリーンの前に再び立つ。