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籠の中の天使
第19章 羽ばたく瞬間
穂奈美さんの言葉だけに集中する。
私は神に選ばれた天使…。
自信を持ってカメラのレンズに笑顔を向ける。
「お疲れ様っ!」
スタッフの声がスタジオ内に響く。
身体が熱くて堪らない。
自分じゃない感覚が治まらない。
「よく、頑張ったな。」
スクリーンの前で動けなくなった私の頭にノアが手を乗せる。
「ノア…、ノア…。」
ノアの笑顔が見たいのに、私の視界がボヤけ出す。
「もう…好きなだけ泣いてもいいぞ。」
お腹に響く声が張り詰めていた心の箍を外してくれる。
「うわぁーん…。」
みっともないくらいに泣いた。
穂奈美さんも千鶴さんも私を見て笑ってるのに、ノアにしがみついたまま泣きじゃくる。
僅かでも翔べた。
生まれて初めて、誰かの為に翔べる事が出来た。
怯えて逃げるだけの私じゃなくなった事に安心したら、驚くほど涙が止まらない。
「ヒック…、うぇ…ヒック…。」
気が済むまで泣く私に穂奈美さんが封筒を差し出す。
「お疲れ様でした。これ…咲都子ちゃんのギャラね。それから編集部から咲都子ちゃんのプロフィールについて質問が来てるけど、答えられそう?」
少し、困った表情で穂奈美さんが聞いて来る。
「プロ...ひ?」
泣き過ぎて呂律が回らない私をノアが笑う。
「本名を雑誌に載せても大丈夫かって聞かれてんだよ。」
穂奈美さんに代わってノアが教えてくれる。
雑誌のページの隅に小さくだけど私の名前や年齢が載るらしい。
「名前は…。」
本名が載るのは怖い。
私があの街の子だと知ってる人にバレたら騒ぎになりそうだと思うだけで身体が強張ってしまう。