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籠の中の天使
第3章 学校嫌い



お母さん達はお店で忙しい。

『錦』のママがわざわざ私の食事の心配をするって事は、今の『錦』の状況はお客さんで満室になったので新たなお客さんの呼び込みをする必要がなく、自分が食事休憩をするついでに私の面倒を見ると言ってくれてるのだとわかる。

満室…。

今時、こんなお店で働く女の子なんかほとんど居ない。

何処のお店も3人から4人くらいの女の子しか置いてなくて、誰かが休むと他のお店の女の子を借りたりしてまで女の子を確保する。

女の子が減れば当然、お客さんも減ってしまう。

『錦』のママだってもうすぐ70歳になる。

最近はお店を閉めるか賃貸で貸すかを迷ってるって聞いた。

お店で働く女の子の年齢が高くなるとお客さんを取るのが難しくなるから、女将として独立する人が居る。

『錦』のママには子供が居ないから女将として独立する人に賃貸で貸して、いずれは店を譲ったりする事になる。

そうやって繰り返される歴史から逃げたいと願う私は可愛がってくれた『錦』のママからも逃げてしまう。

裏口にある狭い玄関で靴を脱ぎ捨てて、廊下を右手へと向かう。

真っ直ぐに伸びた廊下の向こう側は厚くて古びた布のカーテンで閉ざされてはいるけど、その向こう側は見世と呼ばれ、お店のホステスである女の子が座ってる本来の玄関口となる。

女将であり仲介人であるお母さんは見世の前に立ち、道行くお客さんを店へ呼び込み、呼び込まれたお客さんは見世の後ろにある階段で2階へと上がり目当ての女の子と事を成す。

その見世からも私の嫌いな音楽が聞こえて来る。

80年代のユーロビート…。

この時代に、こんな曲で溢れてる街はここだけだ。

この街だけはずっと時間が止まってる。

私はお店にそっぽを向いて右手にある木の扉の中へ入る。

まず目に入るのは古過ぎて汚いとしか思えない小さな台所、それからボロボロになった小さなテーブルの上に私の食事として冷めたお惣菜が置いてあるのが見える。

古びた台所のガスコンロにはお母さんが作り置きしてる煮物を入れた鍋もある。


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