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籠の中の天使
第22章 攻撃
その頃にはお父さんもノアに何も言えなくなった。
そして日本へとノアは独りで帰って来た。
アメフトだけが支えだったノアは努力だけは絶対に辞めようとはしなかった。
「アメフトを失った時、あの子の時間が完全に止まった。」
お父さんが両手で自分の顔を覆う。
それはノアに見せる事が許されない泣き顔なのだと感じる。
「ノアは…まだ負けてないと私は思ってます。」
慰めにすらならないかもしれないけど、私が知ってるノアの姿を話す事にする。
朝のルーティーンを辞めないノア…。
食事も朝だけは必ず同じものを同じ時間に食べる。
ノアは時間を失ってなどいない。
何度も時間を失って来た私だからわかる。
「咲都子さんと出会った後、あの子は大学へ戻りました。あの子がまだ時間を失っていないのなら、いずれ立ち直る希望がある。」
そう言ってノアのお父さんが暖かい炎を輝かせる。
少しだけ両親の温もりを思い出して、逢いたいと思う。
時間は無限じゃないから…。
時間から取りこぼされて感覚を失うと大切な人との時間までもが失われてしまう。
それを教えてくれるノアのお父さんに感謝する。
もっと私の知らない事を学びたいと思うようになった。
車が停まったのは大きな学校の正門前だ。
「ここは?」
「レイヤが通う大学です。すまないが咲都子さんが呼んで来てくれないかな?」
お父さんが握る杖を見せられたら嫌だとは言えなくなる。
「経済学部の付近に居ると思います。」
お父さんはそう言うけど、携帯でここまで呼び出して欲しいとしか思えない。
かといって、自分で携帯を鳴らす勇気の無い私は諦めてノアを探しに車から降りるしかなくなる。