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籠の中の天使
第24章 どんな状況でも…
哀しみが消えて、いつものように自信に溢れた瞳に変わった千鶴さんが私を見る。
「アメリカじゃね、咲都子が育った街をスラムと呼ぶの。もっとも、アメリカのスラムなんか日本のスラムとは全く比べ物にならないけどね。」
千鶴さんが育ったスラムとは、売春行為どころか盗みや薬も当たり前で殺人までもが頻繁に起きる犯罪の街だ。
「そんな街が…。」
驚きしか出て来ない。
「貧しいから学校に行けない。学校に行かないから足し算引き算も出来ず、自分の名前すら書けない。だから結局は働く事も出来ずに貧しいまま生活するしかない街なの。」
そんな街から逃げたいと誰もが考える。
なのに学校へ行けないから逃げ方すらわからない。
やっと、南斗が私を大学へ行かせたがった意味が少しだけわかった様な気がする。
「咲都子を見た時、私と同じスラムの子だとわかっていたから、記事が出ても大して驚きもしなかったわ。」
千鶴さんが大きな手で私の頭を撫でて来る。
「でもね、咲都子…。アンタには胸を張って生きて欲しいの。咲都子がスラム育ちだからと否定されるって事は私も否定されてるのと同じだからね。」
俯く私の顔を何度も上げてくれた千鶴さんが私に何を求めていたのかがわかると迂闊に俯くべきではないと反省する。
「千鶴さんの為にも、頑張りたい。」
ちゃんと笑顔を見せれば千鶴さんも笑ってくれる。
「でも、ノア社長は何で私達がコメントを出すのを嫌がったのかしら?」
穂奈美さんが怪訝な表情をする。
「私も穂奈美もノア社長には逆らえないからね。」
千鶴さんが軽く肩を竦める。
穂奈美さんはモデル時代にノア社長のお世話になっているのだから、社長に逆らえないのは当然だと思う。