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籠の中の天使
第24章 どんな状況でも…
顔を上げて、笑顔を作る。
「おはようございます。」
同じ言葉を返して頭を下げれば、他の男の人が近付いて来る。
「satoさんですね。こちらへどうぞ…。」
と私が行くべき場所へと案内をしてくれる。
スタジオの真ん中には私が撮影する場所があり、そこから端の壁際にメイクをする場所がある。
前の撮影ではメイクは別の小部屋だった。
今回は化粧品のモデルだから何度かメイクを直しながら撮影する事になると私を案内してくれる男の人から説明を受ける。
メイク用の椅子の前には、もうスタンバイ済の千鶴さんが居るからホッとする。
幾ら、親しい知り合いでも一応は仕事だ。
「今日はよろしくお願い致します。」
と千鶴さんに頭を下げる。
これは岡田さんから学んだ事…。
この世界では誰もがライバルだから、誰が見てるかわからない状況では相手が親しくても挨拶を大事にしろと言われている。
「よく出来ました。」
私を椅子に座らせた千鶴さんが耳元で囁く。
撮影場所を挟んだ反対側には穂奈美さんが居る。
岡田さんも誰かと話をしながらスタジオ内に居る。
「鏡の向こう側、壁際の男の人は見える?」
私のメイクを始めた千鶴さんが聞いて来る。
壁際の男の人?
スタジオ内は男の人だらけだ。
壁際を這うように視線を向ける。
男の人…。
明らかに、このスタジオ内に普通の人では無いと感じさせる人が1人だけ存在する。
お洒落なスタッフばかりの世界で、その人だけが時代劇に出て来そうな着物を着てる。
しかも、とても怖い顔の男の人…。
「もしかして…危ない人…ですか?」
ヤクザな雰囲気を漂わせる男の人が居る違和感に段々と心細くなってしまう。
「別に危なくはないわよ。あれが『Beau』の社長だもの。」
情けない顔をした私を千鶴さんが笑う。