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籠の中の天使
第1章 籠娘…、籠娘…
保健室で騒ぐ女の子達が誰なのか知りたいとすら思わない。
私が願う事は私から南斗を取らないで欲しいという事だけ…。
だからお願い…。
早く出て行って…。
ベッドの中で込み上がる吐き気を堪えれば目に涙が浮かんで来る。
私は籠娘…。
彼女達が存在する普通の世界に飛び立つ事を全身が拒んでる。
「ねえねえ、モッチー、どう?」
「ああ…、美味いよ。お前ら良いお母さんになれそうだな。」
「何、それ?クッキーが作れるだけで良いお母さんになれるの?」
「俺のお袋は作れなかったからな。もしも手作りのお菓子とか作ってくれるお母さんが居たら感激すると思う。」
「やだぁ、モッチー、母親に手作りのお菓子なんか作られても重くてウザいとしか思えない。」
南斗の気持ちをキャーキャーと甲高い声で軽く踏み躙る彼女達が嫌いだ。
私のお母さんも南斗のお母さんも朝から晩まで働いてる。
朝は10時に店を開けて、夜は0時まで営業する。
建前上は料亭として登録されているお店…。
そんなお店が長屋で連なり、10軒以上も並んだ道に老若を問わず男性が通るたびに
『そこの素敵なお兄さん、どう?可愛い子が居るわよ。』
と声を掛けてはお店の前で綺麗に着飾って座る女の子を斡旋するのがお母さん達の仕事だ。
そんなお母さん達が手作りのクッキーなんか焼いてくれるはずもなく、南斗も私も寂しい思いをして育って来た。
普通のお母さんという存在を当たり前にしか思わない彼女達に南斗の気持ちなんかわかるはずもない。
「ほら、そろそろ出てけよ。」
南斗が彼女達に保健室から出ろと促す。
「えー?もう少しいいじゃん。怪我人も病人も居ないんだから。」
彼女達は少しでも南斗に構って欲しくてねばる。