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籠の中の天使
第5章 間違ってもいい…
酔った感覚のまま南斗と保健室に戻る。
「吐きそうか?」
氷の入った水を保健室で待ってた北斗さんが渡してくれる。
「気持ち…悪い…。」
「人酔いしただけだと思う。頑張ったね。咲都子ちゃん。」
3人だけだから北斗さんがいつもと同じ笑顔で私の名前を呼ぶ。
ここで他人行儀に突き放されたら二度と立ち直れない気がする。
氷水で吐き気を抑え、保健室のベッドで少し横になる。
「帰れそう?」
北斗さんが聞いて来る。
夕方までに病院に戻る必要があるから…。
「兄貴、やっぱり俺が連れて帰る。」
「南斗はまだ仕事だろ?」
不貞腐れた表情をする南斗の肩を叩いて北斗さんはお兄ちゃんの顔で笑う。
「帰れるよ…。」
今日の事で学校に報告とかある南斗は忙しい。
今の私は北斗さんを頼るしかない。
「気を付けて帰るんだぞ…。」
南斗の指先が私の顔に触れる。
いつものように南斗の腕に抱き締めて欲しいけど…。
ここは学校で北斗さんも居るから南斗の手に触れて
「北斗さんが居るから大丈夫…。」
と笑顔を見せるしか出来ない。
北斗さんと並んで学校を出た。
主治医として私の肩に手を乗せて校舎を歩く北斗さんを不思議そうに他の学生が振り返る。
「懐かしいな…。」
北斗さんがすれ違う女子を見て目を細める。
「北斗さんも…、ここの卒業だもんね。」
「緋彩もな…。」
その言葉に驚いた。
「緋彩さんも?」
「誰もが憧れるマドンナってやつ?俺は医学部に行くのに必死で緋彩と話す暇すらなかった地味学生だったけど…。」
北斗さんの話から後悔を感じる。
もしも、緋彩さんと高校の時から話せて付き合ってたら、今の北斗さんと緋彩さんの人生は違ったかもしれない。