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籠の中の天使
第6章 狡い街
白衣に着替えた南斗が部屋に戻り、私が座る布団の横に寄り添うように座ってくれる。
保健医としてでもいい…。
私が籠娘のままなら南斗は傍に居てくれる。
布団に横たわり、南斗の白衣の袖を握る。
「咲都子…。」
南斗が少し嫌そうな顔をする。
「少しだけでいいから…、寝るまで手を握ってて…。」
南斗に触れたかっただけだった。
南斗の指先が私の手に触れた瞬間、無常にも部屋の扉がノックされて南斗が私から遠のいて立ち上がる。
南斗が部屋の扉を開けば
「モッチー…、咲都を誘いに来たけど、無理かな?」
と杉山さんが顔を覗かせる。
杉山さんの後ろには上地さんと向井さんの姿も見える。
「相原は無理そうだ。」
無表情に南斗が答える。
「じゃあ、モッチーは?」
「俺は仕事で来てんの。お前らみたいに観光に来たんじゃねーよ。」
南斗の笑い声がする。
久しぶりの南斗の笑顔…。
私以外の子と話す南斗が笑ってるというだけで胸が苦しくなる。
私とは笑ってくれない。
南斗は辛そうな顔しかしてくれない。
杉山さん達の声から逃げて耳を塞ぐ。
「ほら、早く行かないと時間が失くなるぞ。」
南斗が観光に行く杉山さん達を送り出す。
扉を閉めて私の傍に戻って来る。
私は南斗に背を向けて布団の中に潜り、更に耳を強く塞ぐ。
南斗が何かを言った気がする。
でも今は南斗の声を聞きたくないの…。
他の生徒と笑ってる南斗を見たくないの…。
そうして私は南斗までも拒否してしまう。
南斗の手が私の髪に触れた気がする。
布団の上からポンポンと叩かれる。
小さくなるだけの私は南斗に答える事はなかった。