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きっかけは十人十色
第22章 嵐の前触れ
「私は叩き上げで今の役職にまでさせて貰いましたけどね。若い頃は靴底がすり減るまであちこち営業に回って……、あの頃は痩せてたはずですが、いやいや、接待だ何だで付き合いが増えて変に貫禄がついてしまって」
平田部長は懐かしそうに目を細めながら、自身のたっぷりとした腹をさすった。
「あぁ、今の話、田嶋さんには内緒ですよ。まだお若いからね、身体に気をつけて頑張って下さいっていう老婆心です。婆さんではありませんけどね」
「はい、承知致しました。ありがとうございます。精進します」
頭を下げると、笑顔を返した。
「ほほ、結構結構」
営業で客先を回っていると、時に人生経験から為になるアドバイスを頂くこともある。
俺にとっては急な訪問だったが、良い収穫になった。会社にも良い報告ができそうだ。
「失礼致します。またよろしくお願い致します」
応接室をあとにして、篠田興産のエントランスを出た。
駅は……あっちの方か。
方向を確かめて歩き出そうとしたところで、後ろからヒールのカッカッという音が走って聞こえたかと思うと、名前を呼ばれた。
「かーい」
かーあーい、と節をつけた呼び方。すっかり頭から抜け出ていたのに。
平田部長は懐かしそうに目を細めながら、自身のたっぷりとした腹をさすった。
「あぁ、今の話、田嶋さんには内緒ですよ。まだお若いからね、身体に気をつけて頑張って下さいっていう老婆心です。婆さんではありませんけどね」
「はい、承知致しました。ありがとうございます。精進します」
頭を下げると、笑顔を返した。
「ほほ、結構結構」
営業で客先を回っていると、時に人生経験から為になるアドバイスを頂くこともある。
俺にとっては急な訪問だったが、良い収穫になった。会社にも良い報告ができそうだ。
「失礼致します。またよろしくお願い致します」
応接室をあとにして、篠田興産のエントランスを出た。
駅は……あっちの方か。
方向を確かめて歩き出そうとしたところで、後ろからヒールのカッカッという音が走って聞こえたかと思うと、名前を呼ばれた。
「かーい」
かーあーい、と節をつけた呼び方。すっかり頭から抜け出ていたのに。