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きっかけは十人十色
第22章 嵐の前触れ
それはどうもありがとうございます。
頭の中を抑揚のない、述べるだけのお礼の言葉が流れていく。
似合わないと言われるよりはいいが、社交辞令ではないのも分かっている。
だがしかし、仕事終わりに待ち合わせたのは過去の話だ。
「俺、戻らないとだから」
これ以上の会話は避けるべきだと思い、会社に帰らなければいけないことを端的に告げる。
「櫂」
そう何回も呼ぶなよ。今度は視線だけを返した。
「私、役職付きの秘書として入社したの。また来た時はお会いすると思うので、よろしくね。それでは、お気をつけてお帰り下さいませ」
すっとお辞儀をして、外行きの笑顔を返された。
黙って頭を下げると、駅に向かって歩き始める。身体の向きを変える瞬間、視界の端でいたずらに小さく手を振っているのが見えた。
今まで幸か不幸か、別れた彼女とばったり再会したことなんてなかった。関係が切れたら連絡先は消去、及びLINEはブロックしていたから、忘れた頃に連絡が来る、なんてこともなかったのだ。
それがまさか、まさか、こんな形でとは。
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