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きっかけは十人十色
第26章 ニアミス
手団扇で、パタパタと頬に風を送る。
もっとも、風を感じるだけで熱が冷める気配は一向にないけれど。
『詩乃』
「っはい」
『俺、今からもの凄く変なこと言うけど、嫌がらないでね』
「え……?うん」
何を言われるのか全く想像がつかなくて、熱はそのまま、鼓動が期待と少しの不安を持って速度を増していく。

『隣に居たら我慢できなくて抱きしめてる。絶対に』

胸がきゅうっと甘く締めつけられて、身体が震えた。もちろん、嫌悪感なんかじゃない。
櫂に対する気持ちが、大きく膨らんでいく。
心がぽかぽか温かくなって、陽だまりにいるようなふわふわした心地よさ。
こんなあったかい気持ちになれるのね。
「ありがとう」
今まで感じたことのない感情に、素直に言葉が出てきた。
人の気持ちは複雑なようでいて実は単純で、いつでも同じ感情のままではいられない。
脆くも気持ちが切れるなんて、この時は少しも思いもしなかった。
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