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きっかけは十人十色
第26章 ニアミス
整った綺麗な顔で、何を考えてるか分からない不敵な笑みも、勝手に“櫂”って呼んでいるのも、櫂が腕を払いのけないのにもイライラが増幅していく。
下手に払いのけて、万一怪我でもされたら……っていう配慮かもしれないけれど。
鞄を持つ手に、変に力が入る。
駅の近くというのもあって、人通りはすこぶる多い。
追い抜きざまにちらりと見たり、ひそひそと遠巻きに話をしているのも聞こえる。
別に見せものじゃないわ。
私は思いがけず連絡をくれた櫂と待ち合わせただけなのに。
久しぶりに直接会えるから、嬉しくて――……。
「あ」
ササイさんの視線が私の唇へと向けられる。
「リップの色、おそろ――」
彼女が言い切る前に、手の甲でぐいっと拭い取った。
「……何か?」
「いえ、気のせいだったみたい」
表情を誤魔化すのも、そろそろ限界に近い。
そこにいるべきは私なのに。
怒りが過ぎ去ると、急激に気持ちが萎んで悲しくなった。
笑顔を貼り付けていた表情筋からも力が抜けていく。鼻の奥がツンと痛くなった。
――あ、マズイ。来るかも。
下手に払いのけて、万一怪我でもされたら……っていう配慮かもしれないけれど。
鞄を持つ手に、変に力が入る。
駅の近くというのもあって、人通りはすこぶる多い。
追い抜きざまにちらりと見たり、ひそひそと遠巻きに話をしているのも聞こえる。
別に見せものじゃないわ。
私は思いがけず連絡をくれた櫂と待ち合わせただけなのに。
久しぶりに直接会えるから、嬉しくて――……。
「あ」
ササイさんの視線が私の唇へと向けられる。
「リップの色、おそろ――」
彼女が言い切る前に、手の甲でぐいっと拭い取った。
「……何か?」
「いえ、気のせいだったみたい」
表情を誤魔化すのも、そろそろ限界に近い。
そこにいるべきは私なのに。
怒りが過ぎ去ると、急激に気持ちが萎んで悲しくなった。
笑顔を貼り付けていた表情筋からも力が抜けていく。鼻の奥がツンと痛くなった。
――あ、マズイ。来るかも。