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きっかけは十人十色
第27章 いたずらなタイミング
「さっさと行きなさいよ」
人の腕を勝手に掴んで、身動きできないようにさせてたのは誰だよ。
向きを変えて一歩踏み出そうとして、そうだ。言い忘れてたと思い出して再度身体の向きを戻した。
「何よ。まだ何かあるの?」
相変わらず腕組みをしている。
さっきからやたらと上から目線だな。まぁいいや。
「お前の身体じゃ、俺のはもう反応しないから」
言い終わるか言い終わらないかのうちに、カッと目が見開かれた。
ヒュッと空を切る音。
直後、パアンという乾いた音のあとに頬に痛みが走る。
ギャラリーのざわつきが一層大きくなった。

唇をぎゅっと噛み締めて、目元を若干赤くしている。
絢芽の悔し涙を浮かべた顔より、詩乃の泣き顔の方が何倍も、何十倍も愛おしい。
「……仕事に障ると悪いので、手首は冷やしておいて下さいね。佐々井さん」
「変なところで優しさ出さないでよ。そういうところが気に入らないのよ」
精一杯の強がり、か。余計な一言だったか。
気に入らなくて結構。
今度こそ背中を向けて、階段をニ段飛ばしで下り切ると地下通路を駆け抜けた。
まだ、そう遠くへは行ってないはずだ。
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