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きっかけは十人十色
第8章 帰り道
そのまましばらく歩くと、木山さんが口を開いた。
「この角を真っ直ぐ行ってすぐだから、ここまでで大丈夫」
「うん、分かった」
「帰り気をつけて」
「うん、じゃあ―…」
バイバイ、と軽く手を振ろうとして手を動かしかけた所で、
「櫂」
名前を呼ばれ、ドキっとしたのと同時に反射的に動きが止まる。
「おやすみ」
「あ、うん。おやすみ…」
木山さんはストールを翻して角を曲がって行った。
半ば呆けたようにその場に立ち尽くしてしまっていたのは、香水の微かな残り香を感じ取ったからと、不意打ちで名前を呼ばれた衝撃と(つまりまだ慣れていない)、『おやすみ』と言った表情が可愛かったからで。
自分の中途半端な位置で止まっていた手のことなど忘れてしまっていた。
心を持っていかれるのは一瞬で、理性なんていつ崩れるか分からない。
自分が言った言葉に嘘はないのだが、“我慢できる”、“分別する”といった自制心は、香水がふわりと鼻をかすめれば効かなくなるのではと思ってしまった。
「この角を真っ直ぐ行ってすぐだから、ここまでで大丈夫」
「うん、分かった」
「帰り気をつけて」
「うん、じゃあ―…」
バイバイ、と軽く手を振ろうとして手を動かしかけた所で、
「櫂」
名前を呼ばれ、ドキっとしたのと同時に反射的に動きが止まる。
「おやすみ」
「あ、うん。おやすみ…」
木山さんはストールを翻して角を曲がって行った。
半ば呆けたようにその場に立ち尽くしてしまっていたのは、香水の微かな残り香を感じ取ったからと、不意打ちで名前を呼ばれた衝撃と(つまりまだ慣れていない)、『おやすみ』と言った表情が可愛かったからで。
自分の中途半端な位置で止まっていた手のことなど忘れてしまっていた。
心を持っていかれるのは一瞬で、理性なんていつ崩れるか分からない。
自分が言った言葉に嘘はないのだが、“我慢できる”、“分別する”といった自制心は、香水がふわりと鼻をかすめれば効かなくなるのではと思ってしまった。