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きっかけは十人十色
第20章 適度な距離感
櫂と話していながら、在岡のことを思い出してしまっていた。
彼は忙しくしていたけれど、忙しがって連絡は無いに等しいようなものだった。
だから、たまに訪れる僅かな機会にしがみつこうとしていたのかもしれない。
付き合っている実感が欲しかったのか、“自分がちゃんと彼女である”と確かめたかったのか。
今さらこんなことを考えたところで、どうしようもないのだけれど。
デートは必死になってするものではないのだと、それだけは学んだ。
そんなことを思いながら湯船にゆっくりと浸かっていると、クリップで留めていた隙間から、ぱらりと髪の束が落ちてきた。

――伸びてきたなぁ……。
手に取ってじっと眺める。
短くしてしまおうかと一瞬考えが浮かんだけれど、櫂に触られた感触を思い出して、その考えはすぐに打ち消した。
切ったとしても櫂ならきっと、嫌な気分にさせない言葉に表してくれる。でもきっと、些細な変化でも気づいてくれる、そう思った。
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