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きっかけは十人十色
第22章 嵐の前触れ
「彼女、一ヶ月前に入社したばかりでね」
ドアが閉まると、平田部長がゆったりと口を開いた。
「そうなんですね。しばらく会ってなかったもので、存じ上げませんでした」
知らないのも無理はないのだが。
「あぁ、そうでしたか。まぁまぁ、本題に入りますかね。拝見して宜しいですかな?」
「はい、どうぞご覧下さい」
しっかりと書類を手渡した。
うんうん、と頷きながら納品リストに目を通している。リストを追っていた視線が、ある一点で止まった。
――来た。
ごくり、と息を呑む。
「柴崎さん、このチタン製のタンブラーなんですが」
「はい」
「納品数を増やして頂くことはできますか?」
真剣な眼差しを向けられた。
まずは、詳しく話を伺わなければいけない。
「はい、できますが……。何かご事情が?」
「少し先の話になるんですがね、年明けに弊社の取引先の三十周年の記念式典が予定されてまして」
「それはおめでとうございます」
「いやいや、ありがとうございます」
一瞬だけ顔を綻ばせたあと、平田部長は表情を戻した。
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