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恍惚なる治療[改訂版]
第5章 彼の素顔
朝から降り続いていた雨は夕方になって止んだが、独特な雨の匂いと湿っぽい空気が身体に纏わり付いてきて重苦しい…
夜という時間もあってか、俺の気分は上がらない。
陰鬱な空気を振り払うようにジャケットの襟を正し、三雲さんの待つ店に向かった。
「佐伯先生、こっちです。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、フォローよろしくね」
「はい」
三雲さんのご両親がセッティングしたのは、この地域では有名な高級料亭。
入るのを躊躇いそうな格式高い店に、早くも気持ちがへし折れそうになっていた。
やっぱり安請け合いするんじゃなかったか…
恋人のフリをするだけなのに、下手なヘマは出来ないので緊張に拍車が掛かる…
店員に案内された個室には、1組の夫婦が座っていた。
俺達を見ると、柔らかな笑みを浮かべて、向かいの座席を手差した。
厳格そうな雰囲気は醸し出されておらず、一先ず安心…
「佐伯さん、こちら私の両親です」
「初めまして。穂波さんとお付き合いさせてもらっています、佐伯 孝志と申します」