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恍惚なる治療[改訂版]
第5章 彼の素顔
挨拶はしたものの、どう話を切り出せば良いか迷っていると、お父さんがにこやかに話を切り出してきた。
「佐伯さん、あまり畏まらないで下さい。娘から聞いてますよ」
「そ、そうですか…?」
「娘の派遣先の方だとか…何か娘がご迷惑を掛けていませんか?」
「いえ、全く。むしろこちらが迷惑掛けてますよ。いつも公私共に支えていただいてます」
きちんと会話出来ているかと三雲さんと顔を合わせると「大丈夫」と言うように微笑みながら頷いた。
よく見ると、笑った顔がお父さんとよく似ている。
「2人とも見つめ合っちゃって。仲睦まじいわねぇ…私達みたいで」
「こら、やめないか。はははっ、佐伯さんすみませんね」
「いえいえ…」
穏やか雰囲気の中、お酒と料理が運ばれてきた。
「佐伯さんは小説家として活躍されていると聞きましたが、出版社はどちらですか?」
「文令社です。『新緑』という雑誌で連載を持っています」
「文令社と言えば、大手の!売れっ子の作家さんのようだ」
「いや、僕なんて全然ですよ」
お酌されたお酒を飲んで料理をいただきながら、海外で仕事をしているご両親の話に耳を傾けた。
ただ、ボロを出さないようにと緊張しているからか箸が進まず、酒だけを流し込む。