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セイドレイ -re:BORN-
第1章 プロローグ
じめじめとした湿気が不快な六月某日。
放課後、校舎三階にある男子便所の小窓からグラウンドを見下ろすひとりの少女がいた。
少女の名は、高崎亜美(たかさき あみ)。
ここ、私立光明学園高等学校に通う一年生だ。
今にも雨が降り出しそうな曇り空のせいで、男子便所内はほの暗く陰気な雰囲気に包まれている。
四つ並んだ小便器からは、いくら掃除をしようともこびりついて取れない尿石が放つアンモニア臭が漂っていた。
しかしなぜ、男子の排泄場であるはずのここに女子の姿があるのか。
ほどなくして、廊下からひたひたと足音が近づいてくる。
すると途端に亜美の表情は狼狽し、肩をすくめるような素振りを見せた。
そしてその足音の主は、そのまま男子便所内へと侵入してきたのだった。
「──おつかれさん。悪ぃな、待たせちまってよぉ」
野太く低いその声の正体は、この学園の体育教師、そして生徒指導主事でもある本山広志(もとやま ひろし)、四十五歳。
身長180cmはあるかという大柄な本山は、学生時代に柔道で鍛えた筋肉の上に加齢による脂肪が乗っかり、肥満という印象こそないもののかなり恰幅のよい部類ではある。
そんな本山には、「光明学園の歩くセクハラ」との異名があった。
いつも上下えんじ色の着古したジャージを身にまとい、まくり上げた袖から生えた太い前腕は日に焼けて浅黒く、そこへ書き殴ったかのような直線的な体毛が生い茂る。
髪は短く刈られているのに針金のようなクセ毛のためか清潔感とは無縁で、極太のマジックで描いたような眉や、しぶとく残る髭の剃り跡もあいまってどうにも暑苦しい。
睨みをきかせたような細い目は、分厚い一重のまぶたとやや垂れ下がる目尻のせいで妙ないやらしさを醸し、鼻下を伸びる長めの人中がさらに品のなさに拍車をかける。
要するに「スケベそうな顔」の典型であった。
こんな風貌では女子生徒ウケがすこぶる悪いのも頷けるが、本山が歩くセクハラと言われているのはその見た目のせいだけではない。
本山はその肩書きを存分に利用し、目星をつけた女子生徒に「生徒指導」という名目で難癖をつけては、おおよそ理不尽なセクハラ紛いの発言や行為をするという悪癖のある教師だったのだ。