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セイドレイ -re:BORN-
第2章 日常
朝の通勤、通学ラッシュで混雑する列車の車両内。
この日は昨夜から降り続く大雨のせいでダイヤに乱れが生じ、定刻から遅れること約10分──その列車は「三崎ヶ丘台駅」を出発する。
『駆け込み乗車はおやめください~!』
駅員のそんなアナウンスもむなしく、車両内は隙間なく乗客で埋め尽くされ、まさに芋洗い状態。
月曜の朝、ダイヤの遅延、梅雨の蒸し暑さ──、それら陰鬱とした空気が渦巻くその中に、ひとりの少女の姿があった。
少女の名は、高崎亜美。
今年から私立光明学園高等学校に通う、高校一年生である。
亜美はいつもこの時間、この車両に乗って通学していた。
自宅の最寄りである三崎ヶ丘台駅から、学園のある「あまつか駅」までは二駅の道のり。
時間にして片道25分ほどのこの距離を通うようになって二ヶ月が経過し、朝の満員電車にも少し慣れてきたころ──亜美にはとあるひとつの悩みがあった。
(──ほら、また…。やっぱり…間違いない)
列車が駅を出発して数分後、亜美は背後に違和感を覚える。
最初は、ただ混雑しているせいだと思っていた。
これだけ人がぎゅうぎゅう詰めになっているのだから、意図せず身体の一部が触れてしまっても仕方がない、と。
しかしあるときから、「それ」は確信へと変わる。
亜美がその確信を持つようになったのは、ここ一週間ほどの話だ。
もしかしたらもっと以前から「それ」は起きていたのかもしれないが──日ごとに大胆になっていくその「手口」は、さすがにもう気のせいとは言えないレベルにまで達している。
背の低い亜美は四方をサラリーマンに囲まれ、その違和感の正体を突き止めることができない。
ただ、確実に「それ」は亜美の背後にいる。
そう──亜美はこのところ、悪質な痴漢の被害に遭っていたのである。