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透明な炎
第4章 ほ
どれぐらい繋いでいたかなんか分からない。

そっと離された手の感覚にハッとすると

「行くか」

と、水槽から離れた武藤が目に入って
水中浮遊は終わりを告げた―――

どんな意図があって手をつないできたかなんか知らない。
長年同期をして来ても、プライベートを一緒に過ごす事はなかったし。
まして結婚している男の気まぐれなんか知らない。

私が知っている武藤の顔は
とびっきり仕事ができる奴。

これだけ。

それだけで十分なのに。
これ以上知りたくないのに。

優しい武藤も
デートにスマートな武藤も
趣味が同じ武藤も

何もかも知りたくない。

好きになりたくないから。
好きになっちゃいけないから。

だから、プライベートの武藤なんか知りたくもなかった。

仕事帰りにほんの少しだけ飲みに行って
軽い文句を言いながらも奢ってくれて
愚痴を聞いてくれて
それでも翌朝、出社するとすでに来ている武藤がパリッとして
仕事を始めていると私も頑張ろうって気持になった。

「優しい武藤なんか知りたくないんだってば」

「あ~?」

小さくつぶやいたその言葉は
ほんの少し前を歩く武藤には聞き取れなかったようで。

「なに?」
と顔を近づける。
「近いって」
露骨にイヤな顔をして見せて
肩をグイッと押しやる。

私にはそれぐらいしか抵抗の技を思いつかなかった。

武藤を好きにならない抵抗を―――
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