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あの時、あのBARで
第1章 BAR・シークレット
このバーにもしばらく来られなくなる。
その理由は、私たち夫婦にとってこの上ない幸福を味わうためである。
「咲子ちゃん、大丈夫かい?スツールに座ったらひっくり返りそうで怖いよ」
「そうだね、テーブル席にしておく。凌空はカウンターに座って」
「身重の女房をほったらかしてカウンターに座れるかよ」
相変わらず優しい夫は、私よりも育児本に夢中になっている。
この人と、凌空と結婚してよかったと幸せをかみしめながら、
彼らと出会ったこの店の中をじっくりと眺めまわした。
ガラン・・あの時と同じ音をたててドアのカウベルが鳴る。入って来たのは、
あの時を共に過ごした人物だった。