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あの時、あのBARで
第1章  BAR・シークレット
「おう!大原夫妻!咲子ちゃん体調はどう?」
「うん、元気だよ。胎内も順調だし」
お腹を撫でまわす私に、その言い方!と笑い転げるこの人は・・
あの時私が本当に好きだった、のではないかと思っている男だ。
「孝明さん、遥香さんはお元気?」
「ああ、カミさんも相変わらずバリバリ働いてるよ。今日出張から帰って来たんでさ、
 お土産渡したくてさ。マスターや史彦んちにもってバラバラに配ると賞味期限が」
そう言いながら孝明は、北海道と言えばこれ!という銘菓の紙袋を三つ、カウンターの上に並べた。まず一つをマスターに、次に私たちに、史彦のぶんを私たちが座るテーブル席の
椅子の上に置いた。
「ありがとね、孝明くん。いやしかし、あの頃の若い常連さんたちが
 こんなに立派な大人になって、その過程を見守ることができて、僕も本当にうれしいし、 バーのマスターってこういう喜びが味わえるんだなって。
 そう思わせてくれたのはキミたちだよ」
遠い目だったマスターが、私にフォーカスを向ける。
娘みたいに思っている、そういっていつも心配してくれていた、マスター。
一番最初は、このマスターに恋をしてこのバーの常連になったわけだが、
あんなにもドラマティックな恋の渦に自分から飛び込んでいくことになるとは
想像もしていなかった。



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