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嘘の数だけ素顔のままで
第5章 去勢【4】
 三時十五分になった。『先生』が明日の授業の内容を簡潔に話した。あとは日直の掛け声のあとに皆で、『先生』にありがとうございました、と一斉に言えば一日の日程は終りだった。

 教室は安堵の溜め息と一緒に忽ち女たちの私語で占領されていった。


 女たちはコトブキと同じ無職のはずなのに話を聞いていると色々な予定があるらしくて足早に帰る者も少なくなかった。確か昨日は私物のノートパソコンの調子を『先生』が見てくれると言ったので誰も帰ろうとはしなかった。


 コトブキはきょう掃除当番だったのだが、カーペットに掃除機をかけているうちに一人、また一人と女たちは帰っていった。トイレ掃除はオオハナタカコがやっている。

 テーブルとパソコン、それとキーボードのアルコール除菌はタナカがやっていて、ヒタチノゾミがまだ席に残っていることにコトブキは気がついた。


「パソコンの復習ですか?」とタナカは言った。

「四時半までならパソコン使ってていいって『先生』が言ってくれて」とヒタチノゾミは言った。「ごめん、掃除の邪魔だったよね」

「ぜんぜんだいじょうぶ、ヒタチさんはタイピングできないだけで他はちゃんとできてるよ」

「同じことコトブキくんも言ってくれました」

 タナカはコトブキを見て、やるじゃん、と言った。そして、何か傍に寄ってきたと思ったら耳元で、トイレに誘っちゃいなさいよ、などと囁いてきたのでコトブキは顔が赤くなってしまった。


 トイレから出てきたオオハナタカコが、掃除終わったよー、と言って給湯器で手を洗っている。気がつけば、掃除班の三人とヒタチノゾミ以外は全員帰っていた。


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