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マスタード
第9章 愛ふたたび・・
「夜の闇は危険だから送って行くよ」

「いいよ、人目につくといけないから」

「いや、愛美は美し過ぎるから何かあっちゃいけない。送らせて」

「奏ちゃんったら、ありがとう」

人目につかないように裏道を通って愛美の住まいの近くの人目につかないところまで送って行くことにした。

手を繋いで夜の闇の中を歩く。

「奏ちゃんは変わらずに優しいね。こうして歩いてると『囲炉裏』から家まで送ってもらったのを思い出すわ」

「そうだね。あの頃が一番幸せだった」

「あたしも」

家の近くの物陰に隠れてキスをするとふたりは別れた。

次の日はちょうど休憩時間と合ったので愛美は陽葵を連れてグルビーズのステージを見にやって来た。

「来ちゃった」

「ようこそ」

愛美と奏は微笑んで挨拶をかわすが、つい数時間前に激しく愛し合ったことを思い出してお互いに顔を赤らめた。

「ママ、何だかキレイになったね。そうちゃんパパと何かいいことあった?」

「いいことって何よ」

「ちゅうとか」

「そ、そんなことするワケないでしょ。ちょっとお酒を飲んでお話しただけよ・・ねっ」

愛美に振られて奏も「久しぶりだったからちょっと話が弾んじゃって、陽葵がいい子にしてることもいっぱい話してもらったよ」と調子を合わせた。

「本当かな~、ちゅうしたんでしょ。パパには内緒にしておくよ」と陽葵はどうも怪しいといったカンジでふたりを見た。

「もう、おませさんなんだから」と愛美におでこをピンとされて陽葵はペロッと舌を出して笑った。

おませさんだけど、いいことがちゅうで終わっている無邪気さには安心した。いつまでもそれ以上のことは知らないでいてくれたらと奏も愛美も思っていた。

ちゅうしたんでしょと言っている陽葵、どうもあやしいと愛美や奏を見る陽葵、おでこをピンとされて舌をペロッと出して笑う陽葵、そのどれもが可愛い娘の姿だから奏は心のアルバムに永久保存した。

「お疲れ様で~す」

グルビーズのオタクたちも続々と集まってきた。

「モルツさん、奥さんとかいたんだ」
「娘さん?」

オタクたちは愛美と陽葵に興味津々といったカンジで奏の妻子だと思って囃し立てた。

「そうじゃなくて、昔よく飲みに行った店の女将さんで、今はここに住んでるみたいでバッタリ会ったんで、グルビーズさんを布教しちゃいました」

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