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マスタード
第9章 愛ふたたび・・
と奏はヤバいところは端折って愛美と陽葵のことを簡単に紹介した。

「スゴいじゃないモルツさん。昨日の蕎麦屋さんといい、絶好調にご新規さんを増やしてくれてありがとう」

「オレたちも布教活動がんばらないとな」

オタクたちの話題がグルビーズの布教活動の方へ行ったのでとりあえずひと安心した。
そんな愛美と奏の様子を見て陽葵はクスクスと笑って、本当はちゅうしたんだよと思っていた。

2日目もグルビーズのステージは大いに盛り上って愛美も陽葵も生で見るグルビーズに感動してCDもゲットしていた。

「あっ、奏ちゃん、これ」

別れ際に愛美は奏にマヨネーズを手渡した。
あの自家製のマスタードマヨネーズはここに来てからも作っていて、旅館ではちょっと人気があるとのことである。

「ありがとう。大好きなんだよこれ。美味しくいただきます」

奏と愛美はまた逢うことを約束して別れた。
秀一は人のスマホを覗くような人ではないが、万一のために愛美の電話帳からは奏のことは削除した。

メルアドと電話番号はメモに残しておいて必要な時に連絡をして履歴はすぐに抹消する。やりとりが残ってしまうからLINEはやらない。
秀一がいない時等都合がいい時に愛美から連絡するので、奏の方からは連絡しない。

絶対にバレないようにふたりだけの秘密のルールも決めた。

逢えるのはグルビーズのイベントがある時で秀一が不在の時ぐらいだから実際は滅多にないだろう。

しかし、ふたりにはそれでも十分だった。

奏はグルビーズのこの街を舞台にした大人の恋の歌を聴きながら帰りの車を走らせた。

終着駅、裏を返せば始発駅でもある。
ふたりの許されない恋の列車は再び走り出してしまった。どこへ向かって走っているのかは全く分からない。

行き着く先は地獄か絶望か・・
それでもかまわない、愛美と一緒なら。もうひき返せない。

甘くて辛いマスタードの味とグルビーズの大人の恋の歌を噛み締めながら奏は車を走らせた。

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