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マスタード
第2章 想い出の店
それに、急に今週は星志を迎えに行くのはやめたと言えば妻や両親は絶対変に思うだろう。最悪浮気のことが勘繰られるかも知れない。
同窓会とか適当な理由を作ろうかとも思ったが、星志との時間も大切だ。

奏は星志を連れてあの街に行くことを決めた。
もしリサがそれでも会ってくれるのなら会おう。子持ちの男だという現実を突きつけられたらもう会ってはくれないかも知れない。それならその方がいい。こんな恋愛は間違っているんだし、こんなダメな男のせいでリサを悲しませるワケにはいかない。
もうリサが会ってくれなかったとしても、リサとキスをしたあの街の風に吹かれていたいとセンチメンタルになっていた。

リサへの返信は会いたいとしたうえで簡潔に今の奏の状況を書いた。そして星志も一緒でもいいかと書いた。

メールを打つ手が震えている。
意を決して送信のボタンを押した。
ついにやってしまった。これで終わったとビールテイストを流し込む。美味い、実に美味い。この時奏は初めて喉もカラカラだったことに気づいた。

もう返信も来ないかも知れないと覚悟したのだが、すぐに返信が来た。

大歓迎だし、星志くんと会えるのが楽しみだと送られてきた。そして大変な境遇に追い込まれた奏への労いの言葉も優しく丁寧に綴られていた。

奏の家からその街までは車で5時間ぐらいかかる。金曜の夜に星志を迎えに行ってそのまま向かうことにした。夜は道が空いているが、それでも4時間ぐらいはかかる。

星志を迎えに行くと、玄関には星志ひとりが立っていて、星志の着替えが入った鞄が無造作に置かれていた。妻は奏の顔も見たくないのだろう、いつもこんな具合だ。

星志には出張した時の仕事の仲間が遊びに来るよう誘ってくれたことにした。大きな水族館やホワイトタイガーがいる動物園に行こうと言ったら大喜びをしている。

星志は晩御飯は食べたと言っていたが、奏はまだ食べていない。途中にある人気のラーメン屋に行きたいと思っていた。この店はいつもメチャ混みで車もなかなか入れない。しかし、ラストオーダーぎりぎりで滑り込んだためスムーズに入れはしたが、この時間でもわりと混んでいる。星志も小腹が空いたと言ったのでお子樣ラーメンも頼み、奏は辛味噌ラーメンを食べた。

ラーメン屋を出るとしばらくは山越えの道が続く。激しい恋を唄った演歌にも歌われた場所を越える。
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