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マスタード
第4章 運命の出会い
「ひどいなぁ、爺ちゃんじゃなんて」と男の人は少し情けない顔をして抗議したが、「だって還暦じゃん」と言われて盛大に爆笑した。

「でも、見えないよ。我々と同年代だと思った」と奏が思ったとおりのことを言うと、「嬉しいこと言ってくれるね~」とビールを注いでくれた。
常連たちから「まだまだ若いよ」と声が上がり、再びもうひと華咲かせる話で盛り上がった。

ビールのつまみに思わずたこ焼きを頼んでしまって、リサと初めてデートしたのは彼女が昼間働いているたこ焼き屋さんだったと思い出してしまう。

たこ焼きに付けてくれてあるマスタードマヨネーズが程良い辛さと甘さが入り混じった絶妙な味で、たこ焼きによく合うし、リサとの思い出が心に染みてくる。

「このマスタードマヨネーズ、とってもいい味だね」と思ったとおりの感想を言うと愛美は「でしょう。自家製なのよ」と嬉しそうに言った。

マスタードマヨネーズはいろんな料理によく合う愛美の自信作なんだという。
愛美の嬉しそうな顔を見ていると何だか奏も幸せな気持ちになってきた。

マスタードマヨネーズの美味しさもあって、たこ焼きは実にビールによく合うと思ってビールを飲むといつの間にか女のコが奏の隣に来ていて美味しそうにビールを飲む奏の様子を嬉しそうに観察していた。

「たこ焼き、食べる?」と訊くと嬉しそうに頷くので、まだ辛いものはやめた方がいいと思ってマスタードマヨネーズが付いていないたこ焼きをあげた。

「こらっ、陽葵(ひまり)。お客さんのをもらっちゃダメでしょ」と愛美が娘を注意するので、「かまわないよ。ボクが好きであげたんだから」と言ってあげた。

「ごめんね奏ちゃん。でも珍しいわね。この子、男の人には恐がって近づかないのに」

「そうなんだ。ボクが草食なことが分かるのかな?」

まあ、男だし、そういう事をする相手もいないから時々DVD付の成人誌などを書い足して自分を慰めることはあるけど、リサと別れてから女の人に恋をしたり欲しいと思ったことはないなあと、すっかり草食になったものだとしみじみ思ったのだが、

「きゃはは、何が草食よ。リサと散々よろしけヤッたくせに」と愛美の笑いの渦にしみじみ思っていたことはすっかり流されてしまった。

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