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マスタード
第4章 運命の出会い
散々と言われる程いっぱいヤッたワケじゃないのになと思っていると大人の話の意味は分からないだろうけど娘の陽葵も盛大に笑っている。

「もしかしたらあたしと好きな男の人のタイプが似ているのかもね」

と愛美が悪戯っぽい笑顔で言うものだから少しドキドキして陽葵を見る。
そういえば、愛美も陽葵も一緒に動物園や水族館に行ってくれた時と少しも変わらない。

なんだか時の流れが止まっているようだ。もしかしてこの母娘は歳を取らないのかと子供のような馬鹿げたことを考えてしまう。

「陽葵ちゃんって、もしかして一緒に動物園とか行ってくれた時の子?」とビールの勢いもあってつい言ってしまったら、

「きゃはは、そんなことあるワケないじゃん。何言ってんのよ奏ちゃん」と愛美は大爆笑した。

陽葵は歳の離れた妹で、当然だがあの時の子はもう大学受験を迎える歳だという。4月から高校生になる星史より2つ程お姉さんらしい。

「いい歳して10歳以上も離れた妹を生んだんだけど、何か文句ある?」と愛美は悪戯っぽく笑った。

なる程、陽葵はまだ3歳だから逆算すると40歳近くでわりと高齢出産をしたことになる。

「女将さんはまだ若いよ。10年前と少しも変わらないから、時をかけて来たか、それとも歳を取らないのかと思ったよ」と思ったままのことを言った。

「きゃはは、ありがとう。奏ちゃんだってあの頃と全然変わらないじゃない。若いよ」と愛美は嬉しそうに言った。

それから1月後に奏は再び『囲炉裏』に行った。
本当はもっと早く行きたかったのだけど迷っていた。愛美に心惹かれている自分に気付いて恐かったのだ。悪妻と離婚できない自分に恋をする資格なんてないし、もし愛美に恋をしてしまったらリサの代わりにしているみたいで最低だと思う。

しかし、10年の時を越えてリサが繋いでくれたような不思議な出会いだった。
『囲炉裏』の前を通って陽葵を可愛いと思い、愛美と還暦の男の人を夫婦だと勘違いして、いい雰囲気の店だと心惹かれていたのだが、それは何かの運命に導かれた出会いのようにも思える。

愛美に恋をしてしまうのは恐いけど、愛美に会いたい。陽葵にも会いたい。もし恋をしてしまったとしても黙っていれば何事も起こらない。時々飲みにいくだけの客として過ごしていればいいさ。時々会って話をするだけでも充分幸せなのだから。


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