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マスタード
第6章 幸せのタイムリミット
新年度が始まった。
奏の単身赴任2年目。約束どおりいけばこの街にいられるのはあと1年ということになる。

奏と愛美と陽葵は一緒に夕食をしたり、休みの日にはお出かけをしたりと幸せに暮らしていた。
愛美の母親が恋人とお泊まりをして不在の時には奏が愛美の家に泊まって一緒にお風呂に入ったり、陽葵が寝た後で秘め事をしたりと本当の家族や夫婦のようである。

奏がこの街にいられるタイムリミットは確実に迫っているから一日一日を大切にもしたし、それを誤魔化すように思いっきりはしゃいだりもした。

奏がこの街に留まりたい理由は愛美たちのことばかりではなかった。
学校では担任のクラスも持っているのだが、赴任した時は一年生を担任して、新年度に一緒に二年生となった。
二年でこの学校を去ると分かっていながら一年生を担任させるとはあまりにも酷な仕打ちだとも思っていた。一年生から担任したのなら三年生まで一緒にいて送り出してあげたいというのが教師の情というものである。

年度当初のカウンセリングでそのことを話して、担任した生徒たちの卒業を見届けるまではこの学校にいたいと言ってみたのだが、途中から担任したり、途中で異動したりして三年間一緒にいられないことなどいくらでもあると一笑に伏されてしまった。

夏にはこの街最大のお祭りがある。
お祭りは金土日とあって金曜は夜の花火大会があって街には人が溢れてくるから『囲炉裏』も忙しくなる。

夕方に開幕式があって、その開幕の演奏会で奏が指揮する七滝中学の吹奏楽部が演奏をすることとなった。最大のお祭りの開幕で演奏するとは相当に名誉なことであって、奏のおかげで名門と言われた七滝中学吹奏楽部が復活したということでもある。

客が来るのは花火大会が始まる頃なので『囲炉裏』の開店を少し遅らせて愛美は陽葵を連れて奏の晴れ舞台を見に行った。

演奏も素晴らしいが、何より生徒たちが生き生きとしたいい顔をしていて、途中でMCもきちんと挟んだりする。奏が良い指導をしているんだということがよく分かる。そして指揮を取る奏はカッコいい。

陽葵も奏に買ってもらったプリキュアの武器のスティックを振り回して指揮をしている奏の真似をする。

「そうちゃんパパ、カッコいいね」と満面の笑顔を浮かべる陽葵に愛美も笑顔で頷いた。

「あれが新しいパパか・・いい男じゃないか」

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