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マスタード
第6章 幸せのタイムリミット
愛美たちの傍には『囲炉裏』のオーナーの石垣の姿もあった。石垣もすっかり演奏や奏のことが気に入った様子だった。
愛美とはもちろん男女の関係はなく、まるで父親と娘のようである。

花火大会が近づくと『囲炉裏』にも大勢の客がきていつになく大忙しである。花火を見ながら飲みたい人たちのためにテイクアウトの酒やお好み焼やたこ焼などの販売もするのだが、これがまた飛ぶように売れる。

こういうここぞという時には石垣も手伝ってくれる仲間を連れて『囲炉裏』にやってくるのだ。

店が忙しいのは分かっているので、奏は同僚の先生たちと花火大会を見て飲んでから『囲炉裏』に行くことにした。

同僚の先生たちもこのお祭りの開幕を飾った演奏を素晴らしい偉業だと褒め称えてくれたので本当に嬉しくなった。そして、奏があの山の上の宿舎に住んでいるため殆どは歩いて往復していることを話すと心底同情してくれた。

同僚たちは同情してくれるが、奏はこの街での暮らしが好きだったので、大変さよりも、もうすぐこの暮らしが終わってしまう寂しさの方が大きかった。

そんな思いを噛みしめて花火を見る。夏には花火大会は各地で催されるが、この街の花火が一番美しいと思った。

花火大会が初日のクライマックスなので、花火が終わると街からは人が消えて行って静かさが戻ってくる。
同僚たちと別れて『囲炉裏』に行くと一段落ついていて最後の客が帰るところだった。

「あっ、奏ちゃんパパがきた。おかえり~」と陽葵が嬉しそうに出迎えてくれた。
そして奏は盛大な拍手喝采に歓迎された。店が一段落したので石垣や手伝ってくれた人たちがお疲れさんをしていたのだ。

「素晴らしい演奏だったよ。私は猛烈に感動しました。この街に来て本当によかった」

メチャメチャ感動している様子で見知らぬ男が握手を求めてくるものだから奏は思わず困惑してしまった。その様子を見て愛美がきゃははと面白そうに笑った。

「もう、初対面なのにいきなり握手なんてするから奏ちゃん困ってるじゃない・・こちらお店のオーナーの石垣さん。吹奏楽の演奏を見てもう感動しちゃって」

と愛美が石垣のことを紹介してくれた。

「いやぁ、これは失敬。はじめましてだったね。石垣と申します」

石垣は奏と愛美にもビールを注いでくれてジュースの陽葵も加わって盛大に乾杯をした。






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