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マスタード
第6章 幸せのタイムリミット
「石垣さん、すっかり奏ちゃんのことを気に入ったみたいね」

と愛美は嬉しそうに言った。大方の事情はちゃんと話したのだけど、それでも奏と愛美のことを祝福してくれているのだという。

とても嬉しくて幸せな気持ちになると同時に、これが愛美と陽葵と過ごせる最後の夏休みだと思うと寂しさと悲しさもこみあげてきた。
石垣が言ってくれたように愛美と陽葵といつまでも幸せに暮らしていたい。
甘くて辛いマスタードの味が実に心に染みる。

「どうしたの、奏ちゃん?」
愛美は奏が少し寂しそうな顔をしたのを見逃さなかった。

「いや・・話には聞いていたけど、お祭りの時は本当に忙しいんだね。お疲れ様」と奏は愛美にもビールを注いで何度目かの乾杯をした。

「お祭りが終わって落ち着いたらキャンプにでも行かないか?」

愛美は奏がこの街にいられるタイムリミットが迫っているのを惜しんで想い出を作ろうとしていることが分かったので、

「キャンプ・・行く行く。嬉しいよ、誘ってくれて」
と盛大にはしゃいでみせた。

「わ~い、キャンプだ、キャンプ~」と陽葵もとても嬉しそうにしている。

「本当は奏ちゃんと一緒にお祭りに行きたいんだけど・・ごめんね」と愛美はすまなそうに言った。

店は土曜日はやって日曜は休む。土日の昼間はお祭りに行けるので奏と一緒に行きたいのだが、母親やこの時には帰ってきている姉たちと一緒に行くことになっているのだった。

「こうして一緒にいられりだけで幸せだよ。家族と良いお祭りを」と奏は愛美を抱き寄せた。

土日のお祭りは奏はひとりで行って、土曜の夜は『囲炉裏』に寄って愛美たちとの時間を楽しんだ。

ステージのイベントを楽しんだり、お酒を飲み歩いたりするのは本当に楽しかった。
メインステージの他にもあちこちの小ステージでいろいろなイベントが行われて、ちょっとしたフェスのようでもある。

奏が飲みながら歩いていると、小ステージの近くの待機場所で男たちが深刻な顔で困り果てている様子だった。

「どうかしましたか?」

と奏は声をかけてみた。
男たちはこの街で人気のオヤジバンドで、祭りやイベントではステージを沸かせている。
メインステージでは土日ともトリで演奏する予定なのだが、ギター担当の人が急に体調不良になってしまったらしい。
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