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マスタード
第6章 幸せのタイムリミット
ギター抜きでやるのも難しいのでいっそ演奏はキャンセルするか、だいぶ 物足りなくはなるけどギター抜きでできる曲をやってみるか深刻に話し合っていたところだった。

「ボクでよかったらギターやってみましょうか?」

男たちは最初は本当にできるのか怪訝な顔をしていたが、奏のギターを聴いて感動的に喜んでくれた。
ギターをやるのは10年ぶりだが、全く衰えていないのがスゴい。

ステージは大成功で奏はすっかりオヤジバンドに歓迎された。この出会いは今後の奏と愛美にも大きな意味を持つ出会いだった。

「奏ちゃんじゃないか」

ステージから降りると不意に声をかけられたので振り向くと、10年前にリサと行ったたこ焼き屋のおっちゃんが嬉しそうに笑っていた。

「また奏ちゃんの名演奏が聴けるなんて生きててよかったよ」

おっちゃんは本当に感動している様子であった。
だいぶ歳は取ってしまっているが、おっちゃんが元気でいてくれたことを確認できて奏も嬉しかった。

お祭りが終わると約束どおり奏は愛美と陽葵を連れてキャンプに行った。
店は日曜日が休みなので、日曜の朝から出かけて一泊して月曜日に店を開ける夕方までに帰ってくるという行程だ。その月曜日は奏は有意義な休暇を取った。

車はレンタカーを借りようと思ったのだが、愛美がキャンプのことを石垣に話したら石垣も喜んでくれて車を貸してくれることになった。
石垣は『囲炉裏』の他にもいろいろとやっているみたいで、仲間も運転できるように保険は運転者なら誰でも対象になるように設定してあった。

車の中では、ちゃっかり奏の隣の助手席を陣取った陽葵がスゴく嬉しそうにしている。

「そうちゃんパパのギターのお歌、かっこよかったよ」

「うん。かっこよかったね」

と後ろの席では愛美も嬉しそうにしている。
土曜は店があるから最後まではいられなかったが、日曜は最後までいてオヤジバンドでの奏の演奏もちゃんと見ていたのだ。

奏は演奏をすることになったいきさつを簡単に話してあげた。

「もう、演奏できるなら早く言ってよ。時々店でもやってもらおうかしら」

と愛美が嬉しそうに言ったように奏はたまに『囲炉裏』で弾き語りを披露するようになって、そのおかげで『囲炉裏』はお客さんが増えるようになるのだった。

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