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マスタード
第6章 幸せのタイムリミット
笑美は前の学校の友達や仲間が大好きだった。友達がいなくなって知らない人ばかりの学校にはうまくなじめなかったし、親が離婚して母親と一緒に逃げるようにこの街にやってきた自分がみんなにどう見られるかが恐かった。
そんな色々な気持ちが入り混じって学校に行くのが恐くなってしまった。

笑美の話を聞いているうちに愛美や陽葵、東京に行った美海のことを思い出して奏も涙を流していた。

幼い頃に父親の暴力を見て、小学6年生で新しい父親に襲われて二度も両親の離婚を経験した美海、生まれた時から父親がいない陽葵、そして二度も夫に傷つけられて離婚するしかなかった愛美・・どんなに悲しく辛かったのだろう。

離婚の事情は分からないが、両親が離婚して大好きな仲間とは離れなければならないということは思春期の笑美にとってはとても辛いことだったのだろう。
大好きな人がいる街や学校は、今の奏のように大切で離れたくはない場所だったのだろう。

「人はいろいろな事情を抱えて、それでも生きていかなくてはならない。だったら好きなことや楽しいことをいっぱい見つけていこうよ。まずは吹奏楽かな」

「先生・・ありがとう」

涙を流して微笑みをかわす奏と笑美を見て吹奏楽の仲間たちも涙を流していた。

「先生・・もしボクたちが学校に来れなくなったりしてもこんなふうに親身になってくれますか?」

「当たり前じゃないか。みんな先生にとっては大好きで大切な仲間なんだから」

できることならずっとここに残って大好きなみんなと一緒にいたいと奏は心から思っていた。
自分がここにいられるうちに笑美が美しい笑顔を取り戻してくれたのは本当に嬉しかった。

笑美は学校に登校するようになって吹奏楽部に入った。自分がいる間に不登校を解決してあげられたのは何より嬉しいことだった。自分ひとりの力ではできなかったことだから力を貸してくれた生徒たちにも感謝の気持ちでいっぱいだった。

笑美や吹奏楽のみんな、クラスのみんなは雨宮先生を異動させないように嘆願までしてくれた。
もしかしたらキセキは起きるかも知れないと切に祈っていたのだが、残酷なことに人事異動の内示は下された。
家から電車で30分位で通える所にある学校だった。
主任という肩書きも与えられたので一応は昇格したのだが、少しも嬉しくはなかった。


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