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マスタード
第7章 奏ちゃんパパは単身赴任
「そうか、陸くんも寂しいんだな。お父さんが大好きなんだ」

奏の言葉に陸はコクンと頷いた。

「ボクも陽葵と離れ離れで、すまないと思っているし、寂しいんだ。陸くんのお父さんも同じように思っていて、陸くんに会いたいから大変な仕事も頑張っているんだよ」

陸の顔が明るくなる。まだ子供だから無理もないけど、自分が寂しいだけで、お父さんも同じように寂しいんだなんて考えたこともなかった。

「世の中には色んな事情で離れ離れだったり、お父さんやお母さんがいない家もある。そういうことで人をからかったりイジメたりしてはダメだよ。自分も寂しさを知っているなら尚更だ」

諭すように優しく言う奏の言葉は陸の心にも響いた。

「悪かった、ごめんよ、ひまり」
陸は陽葵に深々と頭を下げた。

「陸くん、ウチの娘のことが好きなのかな?」

陸の陽葵に対する様子を見て何となくそう思った。男子というのは好きな女子に意地悪をしたりとバカなことをしてしまうものだ。奏は自分の子供の頃のことを思い出していた。

「そ、そんなんじゃないよ」
陸は真っ赤な顔をして走って去って行った。

その様子を見て奏は愉快そうに笑った。

「本当に陽葵のことが好きなのかも」と奏が愉快そうに笑うと、

「あんなヤツ好きじゃないもん」と陽葵は少し怒ったように言った。

「ひまりが好きな男の子はそうちゃんパパだけだもん」

と嬉しそうに笑う陽葵を見て愛しさが込み上げてきた。

「ごめんね、いつも一緒にいてあげられなくて」
と奏は陽葵を抱きしめた。

「いいよ、来てくれたから許してあげる。今夜はママのところにくるんでしょ」と陽葵は嬉しそうに言った。

奏が頷くと、「待ってるね~。また後で~」と手を振って嬉しそうに駆けて行った。

本当は奏と一緒に帰りたい、でも家には愛美の母親がいるからできないんだろう。無邪気な子供なのにそんな大人の事情も察してくれる陽葵に愛しさと申し訳なさが込み上げてきた。

とりあえず『囲炉裏』が開くまでにはまだ時間もあるし、その辺で一杯飲んで行こうと昼間から開いている店に向かった。

「ちょっと一杯付き合ってくれないか」

奏が歩いていると同じ歳ぐらいの男が声をかけてきた。『囲炉裏』で時々見たことのある男だが、会話をするのは初めてだ。

「申し訳ない。男にナンパされる趣味はないんだが・・」

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