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マスタード
第8章 別離
秀一は自嘲気味に言った。
ウイルスの影響で『囲炉裏』は経営難に追い込まれて愛美は生活にも困るようになった。
秀一はこれ幸いとばかりに『囲炉裏』が抱えた負債を支払い、愛美と陽葵の生活を保証することで結婚することを承諾させたのだという。
窮地だった愛美は本心はどうであれ藁にもすがる思いだったのだろう。
予感はあったといっても、いざそれをはっきりと聞いてしまうとやはり動揺はある。奏は自分の脳がふたつに別れて体に司令を送っているのを感じた。必死に落ち着くように全身に司令している脳の半分は自分が動揺していることをそのまま全身に伝達している。
全然酔っていなかったはずなのに飲んだアルコールがぐるぐると全身を駆け巡っている。
電車は遅らせよう。奏は待合室のベンチに座って電車で飲むつもりのビールテイストを開けて飲んだ。動揺のせいか喉がカラカラになって何も喋れなくなりそうだった。
そして奏が乗る予定だった電車は発車した。
どう反応するのがいいのかは全く分からない。しかし、ビールテイストを飲んで少し落ち着いたこともあって、今一番言いたいことを言った。
「ありがとう。愛美と陽葵を助けてくれて本当にありがとう」
これは嘘ではなく今一番思っていることだ。最愛の人を奪われた悲しみや怒りがないワケではない。しかし、秀一が助けてくれなかったら愛美も陽葵もどうなっていたかと思うと本当によかったと感謝の気持ちがいっぱいだ。自分は何も助けることができなかった。この前秀一が言ったように遊びだと言われても仕方がないとさえ思う。
奏が一番望んでいたこと、愛美と陽葵が無事に暮らしていることを秀一は実現してくれたのだ。
「何だ、その反応は・・・やっぱあんたメチャいいヤツじゃないか。ズルいよ、愛美が惚れてるのがよく分かるわ」
秀一は拍子抜けしていた。普通の男なら例え不倫だったとしても自分の恋人を奪った男からの電話にはもっと違った反応をするはずだ。喧嘩も覚悟していた。そうなったら不倫をしていたことを暴露してやるという切り札も使う覚悟でいた。
それなのに奏というこの男は愛美と陽葵の無事な生活を一番に考えて奪った男に感謝までしている。
色々な事情はあったにしろ愛美と陽葵に対する愛は真剣そのものだ。そんな男に、嫉妬から出た言葉だとしても遊びだなんて言ってしまったことを激しく後悔している。
ウイルスの影響で『囲炉裏』は経営難に追い込まれて愛美は生活にも困るようになった。
秀一はこれ幸いとばかりに『囲炉裏』が抱えた負債を支払い、愛美と陽葵の生活を保証することで結婚することを承諾させたのだという。
窮地だった愛美は本心はどうであれ藁にもすがる思いだったのだろう。
予感はあったといっても、いざそれをはっきりと聞いてしまうとやはり動揺はある。奏は自分の脳がふたつに別れて体に司令を送っているのを感じた。必死に落ち着くように全身に司令している脳の半分は自分が動揺していることをそのまま全身に伝達している。
全然酔っていなかったはずなのに飲んだアルコールがぐるぐると全身を駆け巡っている。
電車は遅らせよう。奏は待合室のベンチに座って電車で飲むつもりのビールテイストを開けて飲んだ。動揺のせいか喉がカラカラになって何も喋れなくなりそうだった。
そして奏が乗る予定だった電車は発車した。
どう反応するのがいいのかは全く分からない。しかし、ビールテイストを飲んで少し落ち着いたこともあって、今一番言いたいことを言った。
「ありがとう。愛美と陽葵を助けてくれて本当にありがとう」
これは嘘ではなく今一番思っていることだ。最愛の人を奪われた悲しみや怒りがないワケではない。しかし、秀一が助けてくれなかったら愛美も陽葵もどうなっていたかと思うと本当によかったと感謝の気持ちがいっぱいだ。自分は何も助けることができなかった。この前秀一が言ったように遊びだと言われても仕方がないとさえ思う。
奏が一番望んでいたこと、愛美と陽葵が無事に暮らしていることを秀一は実現してくれたのだ。
「何だ、その反応は・・・やっぱあんたメチャいいヤツじゃないか。ズルいよ、愛美が惚れてるのがよく分かるわ」
秀一は拍子抜けしていた。普通の男なら例え不倫だったとしても自分の恋人を奪った男からの電話にはもっと違った反応をするはずだ。喧嘩も覚悟していた。そうなったら不倫をしていたことを暴露してやるという切り札も使う覚悟でいた。
それなのに奏というこの男は愛美と陽葵の無事な生活を一番に考えて奪った男に感謝までしている。
色々な事情はあったにしろ愛美と陽葵に対する愛は真剣そのものだ。そんな男に、嫉妬から出た言葉だとしても遊びだなんて言ってしまったことを激しく後悔している。