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スカーレットオーク2
第12章 12 和夫
「心配かけたな。大丈夫だとは言えないけどペンションは続けるし、和奏も俺が育てたいと思ってる」

「俺も協力しますよ」

「いや。お前も仕事も家庭もあるからそっちをしっかりやってくれ」

「無理はしませんよ。でも女王様から頼まれましたしね。逆らえないでしょ」

「そうなのか。なんだ一体」

 直樹は立ち上がってピアノに向かい、少し埃をかぶったカバーを外して椅子に座り、そっと鍵盤に指を乗せた。

そして優しく『きらきら星変奏曲』を弾きはじめる。

可愛らしく明るく小さな金平糖がいくつも降ってきそうな演奏だった。

緋紗と和夫が聴き入っていると、いつの間にか和夫のそばに起きてきた和奏が立っていた。

嬉しそうな明るい表情で和奏は「ママ!」と叫ぶ。



 直樹のピアノを聴きながら和奏うっとりし、天井をご機嫌よく見つめていた。

音の粒がキラキラと星に変わって小夜子の輝きのように周囲を明るく照らす気がした。

和奏の「ママはいつもいる。いっぱいいる」と嬉しそうに言うのを聞き、和夫は小夜子が死んで初めて泣いた。

嗚咽する和夫をそのままに直樹はピアノを弾き続ける。

緋紗も目を閉じて流れる涙をそのままにしながら小夜子の存在を感じている。

何曲か弾いて直樹は席を立ちまたピアノにカバーをかけ「また弾きに来るね」と、和奏の頭を優しく撫でた。



 演奏の間に緋紗は夕飯の支度をして皆を食事に促した。

和奏は元気よく食べる。

和夫はそんな和奏を見つめながら言った。

「お前のママもよく食べた。だからとても美しかったんだよ」



 直樹の方へ身体を向けて和夫は「ありがとな」と少しすっきりした表情を見せた。

「いえ。女王様の命令なんで」

 和夫は笑って緋紗にも「これからもよろしく頼むな」と微笑みかける。

「もちろんです。オーナー」

 緋紗も明るく応えた。
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