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好きと依存は紙一重
第2章 jester
 未亜が本を読み終えたのは、日付が変わる少し前。本の感想は……。
「つまんなっ」
 本を閉じ、クッションを抱きしめてため息をつく。未亜がつまらないと思ってしまった要素は3つある。
 1つ目は官能小説でなかったこと。タイトルと表紙、出版社からして官能小説だと思い込んでいた。”愛の蜜に溺れて”というどこか官能的なタイトルに期待しすぎてしまったのがいけなかった。女性向け官能小説を多く出版している会社だが、健全な恋愛小説も取り扱っていることも、すっかり忘れていた。
 2つ目はLikeとLoveについて思い悩むヒロイン。この議題は使い古されている上に、女子中学生の黒歴史になるであろう詩のようで、未亜にとって退屈だった。

 そして3つ目は障害のなさ。恋愛小説というのは、身分差や悪女、事件などがふたりの前に立ちふさがり、それらを乗り越えて幸せになるものが多い。だがこの小説には障害と呼べるような障害がほとんどなく、手を差し伸べている男の前で、ヒロインがうじうじ悩み続けているだけだ。ヒロインがうだうだしている間に他の女性が男に言い寄ったり、ふたりは釣り合わないという周りの声に病んで自殺未遂をしてしまう。
 なかなか目を覚まさないヒロインの病室に毎日通って愛をささやき続ける男。彼の想いが届いてヒロインが目を覚まし、ようやく彼の愛が本物だと知って結ばれるという物語。
 障害はヒロイン自身。彼女がとんでもない不幸体質、もしくはこの物語にファンタジー要素があって自分の制御できない力に悩んでいる、という設定ならまだしも、小説の設定は未亜達が住む現実世界と変わりない。

「よくこれで書籍化できたな……」
 予想外の退屈さに、思わず毒づくと、カバンに本を入れた。明日売り飛ばすつもりだ。本当はメンヘラ女の妄想日記のような小説を今すぐにでも捨て去りたいが、新品同様な上に最近発売されたこの本を捨てるのは気が引ける。
 なにより自分が書籍化した時に捨てられたら悲しいので、本を捨てるという選択肢は未亜にはない。
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