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好きと依存は紙一重
第2章 jester
 スマホを置いて伸びをすると、2枚のルーズリーフを並べて流し読みをする。どちらもびっしりと文字が並んでいる。これはやり取りをしながら作り直したプロットだ。
 官能小説の依頼だと、向こうでプロットを作ってくることが多いが、プロットどおりに書けばいいというわけではない。矛盾を見つけ、依頼人と話し合い、プロットを再構築していく。最終確認をして設定を急遽変更しないように釘を刺し、ようやく依頼品の執筆が始まる。

「んー、こっちは後回しかな」
 そう言って未亜が手に取ったのは、イデアの依頼品だ。1時間超えの台本希望で、年上のヤンデレ作品を書くことになった。
 あらすじはこうだ。初めて入った店でポイントカードを作るために住所や名前などを記入する女性(リスナー)。女性の名前を見て、生き別れの兄はいないか、肩に変わった形の傷はないかと聞いてくる男性店員。彼が生き別れの兄だと知る。
 ふたりは再会を喜び、会うようになった。優しい兄と再び一緒に過ごせる幸せを噛みしめる女性だが、物がなくなる、視線を感じる、何もないのに一方的に彼から別れを告げられるなど、不可解なことが続く。それはすべて兄の仕業で、彼が女性を守ろうとしてやったこと。
 女性は何も知らずに兄の部屋に行って相談し、睡眠薬入りの紅茶を飲んでそのまま監禁され、歪んだ兄に愛されるという話だ。
 ヤンデレ作品を書くのが不慣れというわけではない。むしろ得意分野だ。だからこそ、後で一気に書き上げてしまおうと思った。

「これなー……」
 今度は陵辱作品のプロットを手にとってため息をつく。陵辱作品も書きなれている方ではあるが、自分の作品に醜男を出すのが嫌だった。しかもこの依頼品では、ハゲたデブメガネと、ちょび髭を生やしたデブ老人が出てくる。官能小説は芸術品だと思っている未亜にとって、こういった醜い男を書くのは苦痛でしかない。
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