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好きと依存は紙一重
第2章 jester
「でもまぁ、お金のため」
 自分に言い聞かせてワードを開くと、誰かがドアをノックした。
「だぁれ?」
「先生、真理愛ですわ。全員、アンケートを書き終えたので、お持ちしましたの」
 真理愛と言われて一瞬誰か分からなくなったが、お嬢様口調でマリー・アントワネットだと気づいてドアを開ける。アンケートをまとめたファイルを持ったマリーが、にこやかに立っている。だが、未亜の顔を見た瞬間、顔をしかめた。

「先生、疲れた顔をしていますね。少し、お休みになられたほうがよろしいのではなくて?」
「ありがと、マリー。ちょっと集中力切れただけだから大丈夫だよ」
 笑顔を作って言うものの、マリーの表情は曇ったままだ。
「もしかして、邪魔をしていましましたか?」
「そんなことないよ。そろそろ休もうと思ってたんだ」
「でしたら、お紅茶でもいかがでしょうか? これから皆さんと一緒に、練習前のお茶会をしようと思っていますの。シャム猫先生も、ご一緒しませんか?」
 マリーのお誘いに、未亜の表情が華やぐ。マリーが淹れる紅茶は絶品で、お茶会となるといつも美味しいお菓子を用意してくれる。何より、皆でお茶会をするのは未亜にとって活力にもなる。

「うん、お茶会参加する」
「では、先生のカップも用意してお待ちしておりますわ」
 マリーは弾んだ声で言うと、くるりと背を向ける。ふと、連の名前を彼女の口から聞いていないことを思い出し、マリーを呼び止める。
「ね、マリー。団長殿は? というか、今何時?」
「連様はまだお見えになっておりませんわ。今は……11時43分ですの」
 優雅な所作で腕時計を見るマリーを眺めながら、少女漫画から飛び出してきたようだという感想を抱く。

「もしかして、連様と逢瀬の約束でもなさって……」
「ないってば」
 目を輝かせながらあらぬ妄想を繰り広げようとするマリーに、思わず失笑する。隙あらば未亜と連をくっつけたがるのは、マリーの悪癖のひとつだ。
「あら、それは残念ですの……。ですが、遅くても12時半にはいらっしゃるはずですわ」
 ワンピースの裾をつまんでごきげんようと言うと、マリーは1階へ降りていった。
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