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好きと依存は紙一重
第3章 暗雲
 10分後、待てども待てども返信は来ない。
「なんだよ、せっかくこっちから連絡してやってるのにさー」
 こんなことならメールが送られてくる時間帯も確認しておくんだったと後悔する。もう一度挑発メールを送ってやろうかと考えていると、未亜の真上に影が落ちる。

 顔を上げるとニット帽をかぶった、全身黒ずくめの中肉中背の中年男性が立っている。未亜と目が合うと、ニヤリと笑った。
(コイツ、フロイデの……!)
 数日前、フロイデで目が合った男と同一人物であることに気づき、思わず息を呑む。もし推測が正しかったらこの男は黒犬。ずっと未亜の小説を読み続け、jesterの公演に足を何度も運んでいただけでなく、彼らの居場所まで突き止めていたことになる。そう考えると、あの雑居ビルに何も害がなかったのが返って不気味になってくる。

「会いたかったよぉ、シャム猫ちゃん。いや、マオちゃん」
「え……?」
 2年ぶりに源氏名で呼ばれ、動揺する。
(どういうこと? 黒犬はアタシが嬢やってたこと知ってた……? そもそもコイツは黒犬なの?)
 未亜が混乱していると、男はニット帽を取って眼鏡をかけた。その姿に、未亜はあっ、と声を上げる。

「やっと思い出してくれた? 何も言わずにいなくなるなんてひどいじゃないか」
「アンタ、どうしてjesterのこと知ってんの?」
 ニタニタ笑う男を、未亜はキッと睨みつける。この男はデリヘル嬢だった未亜を毎日の様に指名してきた常連客だ。オプションを複数つけてくれたり、長時間指名してくれたりする太客だったので我慢していたが、セックスしたい、付き合いたい、専属になってほしいなど、毎回気持ち悪い発言を繰り返していた最悪な客だ。人の名前を覚えるのが苦手ということもあって、この男の名前は覚えていない。
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